べつに登山が趣味というわけではないけれど、たまたま80年代の初め9月の富士山に登ったことがある。他に登山者をみることはなく、閉ざされた山小屋あたりに張ってあるロープにはつららがついていた。このつらら、山風の影響を受けて横に伸びていて、とても固い。折ろうとしても折れなかった。一応アイゼンは持っていたけれど、中綿入りの防寒具というのは石井スポーツオリジナルのダウン・ベストしか無く、その上にヤッケを着ても風が冷たい。さらに雨具上下を着込んで頂上に。剣が峰の測候所あたりは風も無く割と暖かいので雨具を脱いだらその内側は汗でびっしょりで、滴になって流れている。防寒には防風が効くという事を身をもって知らされた。
この雨具、まだ設立間もない頃のモンベルがハイパロンというコーティングを使った製品で、同社が当時保温中綿として盛んに利用していたダクロンホロフィルと共に当時アメリカのデュポン社が開発した素材だったと記憶している。こういった素材の大きな特徴はその耐久性にもあって、たまの休日たまたまの雨天での使用では、釣りやバイクの運転で10年以上劣化しなかった。
防水素材についてはその頃すでにゴアテックスという通気性を合わせ持つ事に成功した夢の素材が商品化されていたけれど、厚みがあって重く、ごわごわしていてそれほど快適とは言えなかったという思いは、高価であったためになかなか買えなかった悔しさに対する哀しい腹いせか。
ただし90年代末ごろからゴアテックスやこの素材を使った製品はかなりの進化を見せ、発汗による湿り気を感じないという快適性をはっきりと感じ取れるようになって普及しだした。上着やズボンだけでなく、スニーカー、ビジネスシューズにも使われるようになって、雨の多い日本では特に重宝する。
ウィンドストッパーと名付けられたバリエーションは中綿を使わない製品が主流で、軽くてコンパクトにたためる。裏地が少し起毛していてけっこうな寒冷地でもまぁまぁの防寒効果が得られる。東京の冬、スクーターの街乗りだったらこれで十分。モンベルにはこの素材で作ったミトンがあって、切れ目から全ての指が出せるようになっているので、買い物や犬の散歩に便利である。
そうなってくると何かを購入する場合にはゴアテックス製かウィンドストッパー製か、どちらを選ぶかが悩ましい。きちんと作ったゴアッテックス製品はかなり暖かいということに気がついたのは、数年前にアークテリクスのゴアテックス製ぺらぺらジャケットを着るようになってからで、やっぱりこれ、防風性能の問題が大きいということになる気がする。表生地の素材のほか寸法や裁断がたまたま体型に合っていて、裾、襟、袖口からの外気の侵入が少ないから暖かいというのが理屈である。
大きな不安は耐久性でこれはまだわからない。90年代モンベルにパウダーポップジャケットという化繊中綿とゴアッテックスを使った製品があって、初期モデルは中綿量が多くて暖かく、3年間の北海道勤務を含めて愛用した。ところが6年ほどしたら表面の生地にミミズ腫れのようなものができてきて、それが年々増える。その頃ザ・ノースフェイスはすでに日本の大手メーカー製が大部分のモデルを占めていたけれど、たまたま入手したモデルは2年目からミミズ腫れが出た。
これはメンブレン、つまり中間膜であるゴアテックスが表生地から剥離するために起こる現象らしい。10年使われた自社のジャケットを見たいというから買い換えに合わせてモンベルに送った記憶があるので、発生しうる現象だったのだと思う。
少なくとも2010年以降に入手したゴアテックス製品は、ミミズ腫れが発生しにくいようで、これはメーカーの努力による技術進歩の表れだろう、などとエラそうな感想を言う資格が自分には無い事に最近気付いた。40代末から、アクティブな行動をあまりしなくなったのでゴアテックス様の恩恵にあずかる機会が減っただけ。

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モンベルの19/20冬物カタログによると
このカラーは廃版になってしまったようだ

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